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エッセイ

奥多摩だより

井上 章夫 会員

中三の娘の喘息がひどかったので、平成2年に猫3匹と子供5人を連れて奥多摩町に転居した。転校手続きに行ったら教育長に感謝された。効果はてきめん、1年の3分の2欠席していた娘が、わずか1カ月で回復した。

標高550米、山の北川斜面の自宅は、清涼で冷房不要。但し冬は零下12度にもなる。こたつをしまうのは8月と9月だけ、雪は50cmも積もり、雪かきに追われる。さぼればそのまま春まで根雪になり、道路は恐るべきアイスバーンとなる。急ブレーキをかけてスリップすれば、オリンピックなみの3回転半も夢ではない。

近場の観光地として春から秋まで賑わっているが、GWは大渋滞で、地元民は逃げ出すか、ひきこもりとなる。休日には中高年の登山客が自宅の前を「こんなところに人が住んでいる!」と声高に通り過ぎる。よけいなお世話である。こういう人は、ろくに地図も持たずに登山して迷子になり、青梅署山岳救助隊にお世話になるのだ。

ゴミの持ち帰り運動をしているが、わざわざ谷底に投げ捨てる奴がいて、拾うのも命がけである。一番困るのは生ゴミ(死体など)で、そんなときだけ新聞に載る。自殺者も多いので、山菜採りには気をつけた方がよい。発見すると、若い駐在さんが担いでおりるそうだ。
春先は子連れ熊との遭遇もあるが、カモシカやウサギと出会うのは楽しい。電線にぶら下がったムササビは、ちょうど座布団のようで可愛かった。最近シカの食害が深刻で猟友会が駆除しているが、シカ刺は結構うまい。

町内に特養老人ホームが4つもあって、町外からの転入者が多いが、すぐに死ぬので町の人口は増えない。老人ホームは大票田だが、候補者の名前を覚えられないので選挙運動は困難らしい。地元で毎年やっていた敬老会は、70歳以上の高齢者が座りきれなくなったので、去年から中止になった。
転居から17年経って、ようやく土地の古老から「あんたは最近越してきた人だな」と言われるようになった。赤い頬で小学校に通っていた子供たちはすでに成人して、私も奥多摩人になりつつある。

 

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